【逆転の発想】悩みの種だった柿の木が、地域活性化のきっかけに。
全国各地でクマによる人身被害が相次いでいます。富山県でも、2023年度(令和5年度)には9名の方がクマに襲われ、住宅周辺でも多くの目撃情報が報告されています。山奥に生息しているはずのクマがどうして住宅周辺に現れるのでしょうか?原因の一つとして考えられているのが、住宅の敷地内にある柿の木です。
人口減少や高齢化により、実を収穫できなくなったり食べきれなくなった柿の木が放置され、餌を求めたクマがそれを目当てに住宅地に現れているのではないかと言われています。
クマからの被害を防ぐために柿の木の伐採が進められていますが、違う方向からのアプローチとして「柿の収穫」を参加型のイベントにする新たな取組みが注目されています。
今回は、2024年10月に富山市山田地域で開催された「柿の摘み取り&串柿づくり体験会」の様子や企画の背景について、イベントを企画した農村振興課の藤井さんにお聞きしました。ぜひご覧ください。
企画の背景。
放置されている柿の木を、伐らずに資源にすることはできないか。
クマの出没が多発する中、被害を防ぐための対策として、行政の支援のもとで、放置されている柿の木の伐採が進められています。ただ、木の持ち主の中には、伐採の必要性は理解しつつも、なかなか踏み切れない方もいたそうです。
「木の持ち主の方には、自分たちだけでは実を収穫しきれなかったり、管理に手が回らないと頭ではわかっていても、先祖代々受け継いできた木を伐りたくないという方もいらっしゃいます。」と藤井さん。
藤井さん自身も南砺市の山間部出身だったこともあり、木を伐りたくないという気持ちには共感できる部分もありました。そこで、伐採以外の解決方法がないか考えていたそうです。
藤井さんが生まれ育った南砺市は干柿づくりが盛んで、一部の地域では宮内庁に献上されるほど全国的に有名です。企画の背景にはそうした点も影響したのかもしれません。
「柿に需要があることを知っていたので、それをただ単に伐採してしまうのはもったいないと思いましたし、むしろ地域資源として人を呼び込んで地域の活性化につなげられないかと考えたんです。」
どうやって「柿の収穫」を魅力的な体験にするか。
そこで藤井さんが着目したのが「放置された柿の収穫をイベント化する取組み」です。イベントとして柿の収穫を行うことで、”楽しみながら”課題の解決を図れる取組みとして近年注目され、全国でも少しずつ事例が増えていました。
藤井さんは、柿の収穫に加え、収穫した柿で「串柿」をつくる体験を組み合わせることで、さらにイベントの魅力を高めようと考えました。
「せっかく来てもらうんだから、さらに楽しんでもらえるようにできないかと考えたんです。柿の摘み取りから加工までやっている事例はあまりなかったですし、魅力的な体験にできれば、山間部でも多くの人を呼び込めると思いました。」
イベントを開催する場所として選んだのは富山市の山田地域にある集落の一つです。住民が5人と少ないものの、かつては串柿づくりが行われており、柿の加工体験まで行うにはぴったりの場所でした。この地域の活性化に取り組むNPO法人「山田の案山子」の協力も得ることができ、イベントの実現に目途が立ちました。
イベントの流れ。
1.集合
イベント当日は、旧地区センターに一度集合してから、柿の木がある場所まで車で向かいました。イベントには、県内から20代~80代の15名の方が参加され、なかにはカップルや友人同士で参加される方もいたそうです。
2.柿の収穫
柿の収穫に使うのは、高枝切りばさみのほか、この地域で「はさんばこ」と呼ばれる竹で作った道具です。この日のイベントのために、使わなくなった「はさんばこ」が地域中から集められました。
地域の方に「はさんばこ」の使い方を教えてもらいながら、皆さん夢中になって柿を収穫していました。扱うのに少しコツが要りますが、参加者の方は「はさんばこ」を使った収穫を楽しんでいたようです。
3.昼食
昼食には、山田地域で収穫されたお米を使ったおにぎりや、熊肉を使った熊汁がふるまわれました。熊はこの地域に住む猟師の方が獲ったもので、熊汁の野菜ももちろんこの辺りで採れたもの。まさに山田尽くしの昼食でした。
昼食の合間には、地域の方からお米づくりへのこだわりや、この地域のお米が買える場所のPRタイムもあり、参加者の中には、後日お米を買いに来た方もいらっしゃったそうです。
一緒に熊汁を囲むことで参加者同士や地域の方との交流も自然に生まれ、地域の魅力を伝える良い機会になっていました。
4.串柿づくり
収穫した柿の皮をむいて、串柿を作っていきます。串に刺して紐に通すという、文字で書くと簡単な作業ですが、串を刺す場所や柿の選び方などに細かなコツがあります。昔、実際に串柿づくりをされていたという女性から教えてもらい、皆さん試行錯誤しながら串柿を作っていました。
参加者の皆さんは、完成した串柿を持って思い思いに写真を撮るなど、串柿づくりを楽しんでいたようでした。最後に干柿のつくり方も教えてもらい、「持ち帰った柿で干柿を作りたい」と話す参加者の方もいらっしゃいました。
事業の手応え。
イベント実施後のアンケートでは、回答者の9割以上が「満足」と回答されるなど、充実したイベントとなったようです。また「熊の被害や串柿づくりなど、地域について学ぶ良い機会になった」とのコメントもありました。
イベントの実施に携わった山田地域の方々も手応えを感じたようで、今後の実施についても検討されているとのことです。
今回の成果をモデルケースとして、今後他の地域でも「柿の収穫」にその地域ならではの魅力を組み合わせた、新たな取組みが広がっていくかもしれません。
おわりに。
住民の悩みの種だった柿の木を資源に転換しただけでなく、イベント開催を通じて地域の活性化にもつながった素敵な企画でした。
人口減少や高齢化が進んでいく中、課題を解決するための一つのアプローチとして、課題の解決自体をイベントにすることで多くの人を巻き込んでいく方法は今後も増えていきそうです。
文:広報・ブランディング推進室 新田