本物の研究員に、研究のコツ聞いてきました!【自由研究の参考に】
こんにちは。広報・ブランディング推進室の新田です。
7月から、県内の学校では夏休みが始まっています。夏休みといえば自由研究ですが、実際の研究員がどのように研究しているのか気になりませんか?
実は富山県には〇〇研究所と名の付く県の研究機関がいくつもあり、多くの県職員が働いています。今回はそんな研究所の中から、富山県農業研究所で働く研究員のお二人に、お話を聞いてきました。
実際の研究者がどんな研究をしているのか、研究に行き詰まったときにはどうするのか、これから自由研究に取り組む子どもたちや保護者の皆さんのヒントになる情報がきっとあるはずです。ぜひご覧ください!
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どんな研究をしているんですか?
高松:
麦類や大豆、水稲の奨励品種を選定するための研究を行っています。奨励品種というのは、富山県の気候風土に適した「この品種をつくると良いですよ」と県が指定する品種のことです。
例えば同じコシヒカリでも、10年前と今を比べると、気温などの条件がかなり違うので、草丈や穂が出てくる時期などの生育状況や、収穫したあとの米の品質が昔と今では全然違ってくるんです。
なので実際に育ててみて、生育状況や品質の変化を調べたり、あるいは新たな品種を育ててみて、その品種が富山県に適しているのかどうかを調べたりしています。
ほかにも、農家さんからの要望を受けて調査することもあります。今大きな問題になっているものの一つとして、大豆の黒根腐病という病気があります。
これは大豆の根が腐り葉が落ちてしまう病気で、多発すると大豆の収穫量が激減するなど、深刻な被害が生じてしまいます。
土壌で伝染し、一度発生してしまうと被害を防ぐのが難しいという性質があるため、被害を防ぐための手段の一つとして、病気に強い品種の育種に取り組んでいます。
山本:
私がいる病理昆虫課は、県内の主穀作(米・麦・大豆など)や、その他の水田転換作物(タマネギ、ハトムギなど)で問題となっている病害虫への対策を主に研究している部署です。
その中で今取り組んでいるのは、富山県が誇る「とやまの種もみ」の病害リスクを減らすための研究です。
富山県は種もみ(お米の種)の生産量が日本一で、全国に種もみを出荷しています。私の研究では、種もみに病原菌が残らないようにする技術の開発や、種もみの生産現場で病気が発生しにくくなる技術の実証に取り組んでいます。
どうして農業の研究をしようと思ったんですか?
高松:
高校生の頃に魚津の加積りんごを食べて、それがすごく美味しくて農業に興味を持ち始めたんです。
大学でも農業の研究をしていたので、身に着けた知識を生かしながら故郷である富山県に農業で貢献したいと思い、この仕事を選びました。
研究職として様々な角度からアプローチを試しながら、生産現場で生じる問題を解決していきたいです。
山本:
実家が農家をしていたこともあって、小さな頃から農業って楽しそうだなと思っていたんです。それで大学で農業の研究をしたあとも、農業関係の仕事に就きたいと考えていました。
県の仕事は、現場がすぐ近くにあるので取り組んだ成果がわかりやすく、農家さんの顔が見えるところがすごく魅力的だと思います。
現場のニーズや問題を吸い上げて、課題解決に向けて比較的現場に導入されやすい技術開発や研究を行うので、結果が目に見えやすいところにやりがいを感じますね。
研究はどのように行っていますか?
山本さんに研究の流れについて説明していただきました。
1.研究テーマを決める。
まず最初に研究するテーマ(研究課題)を決めます。農業の現場で問題になっていることについて、農業技術等の普及を担当する県の農林振興センターなどから要望も踏まえて課題化します。
2.相談したり、文献を調べながら計画を立てる。
研究テーマが決まったら、どのように解決したらいいのかを考えます。仮説を立てるときには、自分で考えるだけではなく、職場の先輩に相談したり、他県で同じ研究をしている方に話を聞いたりしています。インターネットなどで文献も調べることもありますね。
私が研究で扱う米や麦などの作物は、基本的に一年一作で年に何回も試すことができないので、少しでも効率よく研究を進められるよう、計画や進捗状況は常に課内で相談しながら進めています。
3.思い通りにいかないこともある。
自然相手の研究なので、天気に左右されることも多いです。雨が降ると農薬が撒けなかったり。あと私が研究している病原菌も生き物なので、同じようにやっているのに何回やっても違う結果が出たりして、毎回翻弄されています。
私の場合、作物に発生する病害の研究なので、農薬を試すためにあえて発病させることもあります。それでも発病しなかったり、逆に病気が出すぎちゃったりして、どうしてこうなってしまったんだろうと悩むこともありますね。
4.思い通りにいかないときはどうする?
自分で考えて行き詰まったときは、周りの方に相談します。あとは原因がわかったら、条件を変えてやってみるとか「とりあえずやってみる」ということをしますね。
自分ではうまくできているつもりでも、ちょっとしたコツみたいな部分が足りてなかったり、発想を変えてやってみたらすんなりできたりすることがあります。今まではこうだったからこのはずだっていうのが違ったりすると面白いなって思いますね。
あとは、自分では上手くいかないって思っていても、別の人から「これはこういう傾向だから良いんじゃない?」って言われると、確かにそうだなと思うこともあって。結果を色々な角度から見ることも大事かもしれませんね。
今まで研究していてテンションが上がったのはどんなときですか?
高松:
うどんなどをつくる麺用の小麦でパンを作ってみたときが一番驚きました。実は同じ小麦でも、麺用とパン用では品種が違うんです。
今までは収穫した小麦の粒の見た目や品質しか見ていなかったんですが、試験的にうどん用の小麦を粉にしてパンを作ってみたら、スカスカで空洞だらけのパンが出来上がってしまって。
衝撃的な結果でしたが、今回の結果を踏まえて、小麦の粒だけでなく加工した場合の適性も考える必要があるということがわかりました。
「百聞は一見に如かず」という言葉があるように、実際に試してみることで新たな課題が見つかることもあります。今回出た結果の要因を突き詰めることも今後は進めていきたいですね。
研究するときに心がけていることは?
山本:
県の仕事の良いところは、研究成果が比較的早く現場に導入されやすいところだと思うので、実際に農家さんの現場で扱いやすい技術になっているかは意識しています。
自分の研究が農家さんの課題解決につながっているのが見えると、やりがいを感じますね。
高松:
農家さんの笑顔を想像しながら「見つけてくれてありがとう」って言われるような品種を見つけるぞという思いで研究しています。これがなかなか難しいんですが(笑)。
あとは思ったような研究結果が出なかったときに、想定していなかったデータが関係していたりすることもあります。思わぬところから結果が出てくることも楽しんでいますね。
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おわりに
今回は農業研究所の研究員の方にお話を聞いてきました。美味しいお米や農作物が安定して食べられる背景には、農家の方の努力はもちろん、こうした地道な研究の積み重ねがあるんですね。
現場の課題から研究テーマを設定するところなど、自由研究にも応用できそうなポイントがあったのではないでしょうか。
実際の実験でも、上手くいくことばかりではなく、周りに相談したり別の方法を試してみたりすることが大切だということもわかりました。この辺りも参考にしてみると良いかもしれません。
秋の新米を食べるのが楽しみですね!
文、写真:新田
(参考)農林振興センターの取組み