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SNSで大人気!?「用水だ!くん」が伝えたいこと。

富山県には、多くの県民が一度は見たことがある有名な看板があります。

農業用水路沿いに立てられており、子どものイラストに「用水だ!」の一言が印象的なこの看板は、農業用水路への転落事故を防ぐため、昭和60年頃に富山県が独自制作したものです。

デザインは当時の県職員数名が提案し、農業用水路を管理する土地改良区の協力のもと、リニューアルを経ながら農業用水路に設置されており、多くの県民に親しみ深いものとなっています。

そんな県民にお馴染みの看板を参考に製作した着ぐるみ「用水だ!くん」が先日富山県公式X(旧Twitter)に登場し、フォロワーの間で話題となりました。

今回は「用水だ!くん」を活用した広報に取り組む農村整備課の松本参事と高橋主事に、取組みに至った経緯や広報活動への思いについてお話しいただきました。

松本 紘明(まつもと ひろあき)さん
農林水産省から富山県庁に出向。令和4年度より現職。広報に関しては、コンセプト・演出、マネジメント、デザイン、寸劇などを担当。趣味はロードバイク、釣り、スキー、スノーボード。あわすのスキー場がお気に入り。

高橋 奈々 (たかはし なな)さん
令和4年度採用。他課との連絡調整のほか、SNSやデザイン、寸劇などの農業用水路の安全対策に関わる広報を担当。好きな食べ物はお寿司で、特にブリが大好きとのこと。

ーーSNSでの広報に力を入れている背景を教えてください。

松本:水田が多く農業用水路が身近にある富山県では、令和3年度の22名に比べ減少していますが、令和4年度も11名の方が農業用水路への転落により亡くなられており、死亡者数が全国一となっています。

また、過去10年平均で被害者の9割が65歳以上の高齢者で、近年は65歳以上の高齢者のみが被害者となっています。

転落防止柵や蓋掛け等のハード対策は有効ですが、県内の1万1千㎞ある農業用水路の全てに対策を行うには長い時間を要するため、従来からチラシ配布やポスター掲示等のソフト対策も併せて実施してきました。

ただ、被害者の高齢化が進行していることから、個人への転落防止の呼びかけだけでは限界があると考え、家庭内や地域での呼びかけができないかと、昨年度からは強化期間におけるテレビCMの放映や老人クラブなどへの出前講座を始めており、今年度は比較的若い孫世代が主に利用しているSNSの活用を始めました。

ーー富山県公式X(旧Twitter)に登場し、大きな反響がありましたね。

高橋:SNSでの呼びかけに多くの方から反響がありびっくりしましたが、それだけ農業用水路の転落防止看板が富山県民に身近なものであったことを認識するとともに、SNSをご覧になられた方が自ら転落事故防止の呼びかけをして頂いたこともあり大変感謝しています。

ご覧になられる方も農業農村関係者だけでなく、その他のご職業の方など、年代も含め多様な方々に情報発信できるのもSNSの特徴だと感じました。

農業用水路転落事故防止強化期間に民放3社で放映しているオリジナルのTVCM。

ーー着ぐるみを活用しようと思ったのはどうしてですか?

松本:広報といっても「お知らせ」と「呼びかけ」では発信側として工夫する点が異なると思います。お知らせは正確に誤解がないよう伝える必要がありますが、呼びかけは印象に残り心に響くよう工夫することが大切だと考えています。

そこで、用水路への転落防止の呼びかけを県や職員が呼びかけるのではなく、内容は同じであっても、親しみやすい「用水だ!くん」のキャラクターがSNSを通じてわかりやすい言葉で呼びかけるというスタイルで意識啓発の取り組みを行うのはどうかと考え、着ぐるみを製作しました。

ーー着ぐるみの製作にもかなりこだわったそうですね。

高橋:着ぐるみのデザインは、後々の利用をイメージし、よりこだわりを表現できるよう外注せず自分たちで考えました。元になった看板は上半身しか描かれていなかったので、用水路をイメージした青いズボンに、農業をイメージした緑の靴を合わせています。微妙な配色にこだわり、フェルトで小さなモデルを作りながらデザインしました。

また農業用水路への転落事故防止の意識啓発だけでなく、土地改良施設の役割や農産物の紹介などを行うことを念頭に、表情を2パターン作り、使い分けられるようにしています。

ーーどのような点に苦労しましたか?

高橋:いざ着ぐるみの製作を発注しようとすると、業者探しに苦労しました。また、契約手続きは初めてだったので、周りの先輩に教えてもらいながら進めました。私一人だったら完成しなかったと思います。

農業用水路の安全対策を呼びかける場合
土地改良施設や農産物などを紹介する場合。

ーーSNSでの反響をどう受け止めていますか?

高橋:投稿する文章や写真の選定など、ご覧になる方の受け取り方などをイメージして試行錯誤しながら行っているので、反響があるのはとてもありがたく、励みになります。

コメント欄を見ると「みんなも気をつけてね」「冬は気をつけようね」など、ユーザー同士でも呼びかけが広がっていて、反応が見えるところもSNSのメリットだと感じました。

ーー着ぐるみを活用した寸劇にも取り組まれているそうですね。

松本:今年度から県警との連携に力を入れており、オーバードホールで開催された富山祭りの県警のイベントで寸劇を披露しました。その後も、農業関係のイベントも含めこれまでに3回ほど寸劇をしています。

寸劇というと珍しいと思われるかもしれませんが、伝える内容はスーツを着て講演する場合と変わりません。施策をパワーポイントで専門用語を交えながら説明するか、劇を通じて日頃使っているわかりやすい言葉で伝えるかという違いです。

場面に応じた県民との接し方、表現方法の違いだけなので、あまり苦労はなく、逆にアドリブも利かせないといけませんし、わかりやすく伝えるには自分自身理解していないといけないので勉強になります。 

高橋:寸劇は観客の皆さんと一体になってできるところに魅力を感じました。セリフも一から考えているので、お客さんから拍手をいただけると嬉しかったです。今後の業務につながるいい経験になりました。

富山祭り(お巡りさんとドリルの祭典)で、博士と助手に扮して寸劇を披露した。
着ぐるみ担当の職員も、テーマパークのキャラクターを参考に動きを研究しているそう。

ーー広報活動をするうえで意識していることは?

松本:農業用水路は農業だけでなく、飲み水や発電にも利用され、農村だけでなく都市部も含め富山県民に欠かせないものであり、土地改良区や農家等が協力して管理を行っています。

県民の皆さんが日頃意識していないようなことを改めて知る・感謝するといった機会の創出を意識して、農業用水路の安全対策だけでなく、土地改良施設の役割や農作物の紹介などを行っています。

富山県では20代の県外流出が課題になっていますが、その人数分だけ広報してくれる方がいるようなものではないでしょうか。県外に行って「富山って、どんなところ?」と聞かれた時、「〇〇なところだよ。△△がおすすめだよ。」と答えたことがあれば、充分広報したことになると思います。

富山県の歴史や地理、経済、農業農村などについて知り、一人一人が自分のお気に入りの風景、食べ物、お店などを紹介できたら素敵だと思います。約100万人の県民一人一人の好きが見つかれば、100万個の魅力が見つかったことになりますね。

まずは住んでいる人が富山を知り、楽しむことが富山県の魅力向上につながると感じています。県外から来た私にとっては、日々歩いているだけで発見の連続です。

富山干柿作りを支える名人たちと交流(富山干柿の魅力を発信。)

ーー今年度の取り組みを振り返って感じたことは?

松本:今年度、SNSや寸劇などの様々な手法で広報をしていますが、どのように伝わっているかなどを想像しながら取り組むことで、施策効果やスピード感の向上につながっていると感じています。

また、SNSなどは特にですが、スマートフォンなどを上手に利用できる技術力が必要と感じています。高橋さんなど若手職員との連携があってこそ、今年度の取り組みは実現できたと思います。

役に立っているかわかりませんが私の経験と、若手の技術や考え方などが、互いに尊重し連携することで、今の時代や社会にあった効果的な施策が実行できると考えています。

高橋:採用2年目となる今年度は、昨年度より様々な経験ができました。上司の方々のアドバイスを受けながら、自分なりに工夫して何か達成できると、すごくやりがいがありました。これからもこの経験を活かして、どうしたら県民の皆さんにより伝わるかを意識しながら業務に取り組んでいきたいです。


これから冬も本番となり、積雪によって農業用水路と地面の境界がわかりにくくなります。高齢者や周囲の方への声かけを行うとともに、単独での除雪作業を避けるなど、転落事故防止により一層の注意をお願いします。


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