【富山県庁のバリュー、どう作る?】富山県職員行動指針 策定プロジェクト
本年2月、富山県庁は「富山県人材育成・確保基本方針」とあわせて、「富山県職員行動指針[W4T Well-being for Toyama]」(以下「行動指針」)を発表しました。
民間企業では、組織運営の手法の一つとしてミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を策定することがありますが、行動指針はこの「バリュー」に相当するものです。
富山県庁では行動指針を策定のうえ、今後一人ひとりの職員がこの指針に基づいて日々の考えや行動を積み重ね、ミッション・ビジョンの実現に向けた取組みを進めていくこととしています。
この記事では、なぜ富山県庁が行動指針を策定するに至ったのか、その背景や策定プロセスについて紹介するとともに、担当者の視点からの振り返りについてお伝えしていきたいと思います。
私たちの取組みが他の自治体の参考となれば幸いです。ぜひご覧ください。
なぜ富山県庁に行動指針が必要だったのか?
これまで富山県庁では、行動指針に相当するものを言語化していませんでした。このような中では、それぞれの職員は日々の仕事を通じて「富山県庁らしさ」を習慣的に身に着け、実践していくことになります。
ではなぜ今回、行動指針を定めることになったのでしょうか?
理由は大きく2つあります。一つは「社会情勢の変化や働き手の意識変化等への対応するため」、そしてもう一つは「統一感のある情報発信や行政サービスを提供するため」です。
■社会情勢の変化や働き手の意識変化等への対応
大前提として、私たちは現在、急速な人口減少や少子高齢化、デジタル化の進展など、社会情勢が大きく変化する時代に直面しています。
社会情勢の変化に伴い、行政課題は複雑化・高度化し、県職員もこれまで経験してこなかった事態に対応していく必要があります。
また、時代の変化に伴って職員の価値観や働き方も多様化し、様々な背景や働き方の職員同士が力を合わせることが求められています。
このような状況のなか「職員一人ひとりが力を最大限発揮するためには何が必要か?」を考えたときに、一つの答えとして「あるべき行動や考え方の指針となる行動指針を定め言語化すること」が必要ではないかと考えました。
■統一感のある情報発信や行政サービスの提供
行動指針を策定することとなったもう一つの目的は「富山県庁として統一感のある情報発信や行政サービスを提供するため」です。
これまで富山県庁では、類似するWEBサイトやロゴマークの乱立が課題として挙げられていました。
この課題に対して「根本となる考え方や価値観について職員一人ひとりが共通認識を持つ」ことで、結果として統一感のある情報の発信・行政サービスの提供につながるのではないかと考えたのです。
こうした2つの理由から、富山県庁としての行動指針を策定することが必要なのではないかと結論づけ、人事課をはじめとした部局横断の取組みとして「富山県職員行動指針 策定プロジェクト」がスタートしました。
ミッション・ビジョン・バリューを整理。
行動指針(バリュー)を策定するにあたり、まずは富山県庁のミッション、ビジョンを以下のとおり整理しました。
「住民の福祉の増進」について理解しやすくするため、行動指針策定を進めるにあたっては「時代の変化を見逃さず、現状と課題に真摯に向き合い、県民一人ひとりの多様な幸せを実現するための選択肢を提供する」ことと整理しています。
ここで改めて、今回策定した行動指針と、それぞれの指針が「どんな行動を増やしていきたいのか」についてご覧ください。
日々の業務を通じてこれらの指針を体現していくことで、ミッション・ビジョンの実現が少しずつ近づいていくのだと考えています。
行動指針策定の考え方。
行動指針を策定するときに重視したのは「可能な限り多くの職員が策定プロセスに関わること」です。
行動指針は策定して終わりではなく、むしろ策定した行動指針を一人でも多くの職員が受け入れ、実践していくことが重要だということは理解していました。
一方で、「行動指針の策定」というこれまで馴染みがない取組みに対して、多くの職員に心理的な抵抗が生まれることも容易に想像できました。
このため、行動指針は「自分たちが知らないところで策定され、使わされる」ものではなく「自分たちも策定に関与し、自分事として使いたい」と感じてもらうことが必要だということを確認しました。
また、多くの職員を巻き込むため、庁内公募により、多様な年齢や職種の職員約30名を集めて、ワークショップ形式で議論を深めるを基本としました。さらに、ワークショップに参加しない職員にも議論の過程を共有しながら、アンケートに回答する形で参加してもらうこととしました。
アンケートの結果は、整理したうえでさらにワークショップメンバーに共有し、アンケートの意見を反映させながら議論を進めていきました。
年齢や職種に関係なく幅広い属性の職員が参加してワークショップで議論できたこと、ワークショップに参加していない職員もアンケートの形で関与できた点はうまくできたのではないかと思います。
一方で「もっと多くの職員を巻き込むことができたのではないか」という課題も感じました。あらゆる手段で周知したつもりでしたが、終盤のアンケートでも「取組みの存在を知らなかった」という回答があるなど、もっとできることがあったのかもしれません。
また策定プロセスについても、納得感を高めるために、もっと透明性を持たせて進める必要があったのかもしれません。スケジュール上の制約もありましたが、今後同様の取組みを行う際には、これらの課題を検討する必要がありそうです。
課題とありたい姿から行動指針を考える。
行動指針は、次のような流れで策定していきました。
全員に共通する「課題」も、全員が納得する「ありたい姿」もありませんが、ワークショップやアンケートで出た意見から関連する要素を探しながら、次のような「ありたい姿」を整理しました。
ここから「ありたい姿」の実現に向けて、増やすべき行動は何なのか、そのために必要な言葉は何なのかを考え行動指針の形にまとめていきます。
「言葉のプロ」であるコピーライターの方にも参加いただきながら、より伝わる指針に向けて言葉を整理していきました。
富山県職員にはどんな行動指針が必要なのか?
行動指針を最終的に確定させるまで「数が多すぎるのではないか?(素案の段階では6つの指針でした)」「もっとシンプルな表現が良いのではないか?」「〇〇の観点が抜けているのではないか?」など、アンケートでも多くの意見をいただき、ワークショップでも様々な議論がありました。
また、知事や副知事にも相談し、富山県庁としてふさわしい行動指針に向けて、ご意見をいただきました。これらを反映ながら、最後の調整を行います。少し表現が変わるだけで全体の印象が大きく変わってしまい、確定までには何度も試行錯誤が必要でした。
こうして完成した5つの指針には、どれも職員の「こうなりたい」という意思が込められており、富山県庁だからこそできた指針になったと思います。
これからの展望。
策定した行動指針が全ての職員へ浸透し、職員一人ひとりが常に意識し実践していくことが重要と考え、行動指針が記載された携行可能なカードを作成し、全職員に配付しました。
また、人事評価の一つである業績評価において、行動指針に基づく取組みの目標達成状況を評価する項目を新たに設けました。
今後は、行動指針を実践し積極的にチャレンジした職員や団体を表彰する制度の創設を検討しています。このような取組みをとおした職員の意識改革と、人材育成・確保基本方針での人材育成や組織力の向上にむけた取組みを一体的に推進し、「職員一人ひとりが自ら考えて”始動”する富山県」の実現をめざします。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
文:広報・ブランディング推進室 新田
■参考にしたデジタル庁の事例
■ワークショップの経過をまとめたグラフィックレコード