100年先に、記録のバトンをつなげる/富山県立図書館の〈本のソムリエ〉
”読書の秋”とも言われるくらい、静かな秋の夜長は読書をするのにぴったりの季節ですね。
読書を楽しむためにぜひ利用していただきたい施設が、富山市にある富山県立図書館(以下、「県立図書館」)です。「身近にある市町村立の図書館や学校の図書室は使ったことはあるけど、県立図書館はどこにあるのかわからない」という方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。
でも実は、県立図書館は県内トップクラスの100万冊以上の蔵書を誇るすごい施設なんです。県内にお住まいの方であれば、基本的には他の図書館のように、どなたでも本を借りたり閲覧したりすることができます。
そんな県立図書館で「1分あればどんな本でも見つけて見せますよ」と話すのは、司書歴20年以上のベテラン司書、竹内さん。今回は、そんな本のソムリエのような竹内さんに、施設の機能や役割についてお話してもらいました。ぜひご覧ください。
図書館のための図書館として、
県内の図書館を支える。
県立図書館は「県民の文化と教育の発展を図る」ことを目的として、条例で設置されている県の施設です。
一般的な図書館のように、利用者向けの貸し出しも行っていますが、それに加えて県立図書館は、県内の図書館・図書室向けに資料の提供を行う、いわば「図書館のための図書館」としての役割を担っています。
この役割のおかげで、借りたい資料が市町村の図書館にない場合でも、県立図書館から取り寄せることができます。
「例えば、県立図書館には”全47都道府県分の電話帳”や”1セット(全15巻)で数十万円もする辞典”が所蔵されています。こうした”県内全ての市町村にある必要はないけど、県内に1つは欲しい資料”を所蔵しておいて、いざというときに提供できるようにしているわけです。」と話す竹内さん。
県立図書館では、週に1回、県内すべての市町村を巡回して本の配送を行っていますが、そこまでしている図書館は全国的にも珍しいそう。コンパクトな富山県ならではの、大きな強みの一つと言えそうですね。
ほかにも、石川県や福井県、愛知県などの自治体とも相互に資料を貸し出しできるようになっており、時間はかかりますが、各県ごとに特色ある資料も取り寄せることができます。どうしても閲覧したい資料があるときには、頼りにしたい施設ですね。
100年先を見据えて、
一度所蔵した資料を保存し続ける。
他の図書館では、保管場所がなくなった昔の資料などを処分する『除籍』という手続きがありますが、県立図書館に一度所蔵された資料は基本的に除籍されずに保存し続けているそうです。それはどうしてでしょうか。
「今だったらどこでも買えるようなベストセラーの本でも、それが100年後同じように買えるかというと、そうじゃないかもしれない。そのときに資料として残されていないと、100年後の人たちは今このときの人々の心の動きや空気感を知ることができなくなってしまうかもしれません。
歴史を研究しようと思っても、記録が残っていない時代のことは知ることができません。平安時代や中世の研究ができるのは『源氏物語』や『ホメロス』といった当時の物語が記録として残っているからです。もっと言うと、当時その記録を残す作業をしてくれた人がいたからこそだと思います。」
今の時代の空気感を、記録として確実に次の時代に引き継ぐためにも、資料をしっかり保存することは図書館の大事な機能だと竹内さんは言います。
「1945年の富山大空襲で富山市街は焼けてしまったにもかかわらず、うちの図書館には戦前の古い資料が結構残っているんです。それは当時の司書の方たちが、空襲を見越して、郊外のお寺に資料を避難させて守ったからなんです。その守られた資料を私たちは受け継いでるので、この記録のバトンをちゃんと次の代に繋いでいかなきゃいけないと思っています。」
代々の職員に受け継がれてきたのは、資料だけではなく『記録のバトンを次の代につなぐ』という理念なのかもしれません。
東日本大震災をきっかけに高まった、
”資料を修復する”という意識。
本は紙でできているため、大切に保存していても、長い時間が経つにつれてどうしても劣化していってしまいます。そんなときに重要になってくるのが、本を修復する技術です。特に2011年の東日本大震災以降、本の修復技術に対する意識は全国の図書館で高まっているそう。
「東日本大震災では、図書館ごと津波でさらわれてしまって、そこに所蔵されていた膨大な地域の資料が全部海水に浸かってしまったんです。それを東京都立図書館をはじめとした県内外の図書館が一致団結して、少しずつ海水を抜いたり、着いたカビを落とすといったことをして、なんとか資料を復活させていったんです。」
竹内さんもその話に感銘を受けて、万が一災害があったときに少しでも多くの資料を残せるよう、災害復旧や修復の技術を学ぶようになったといいます。
幸か不幸か、学んだ修復技術を活用する場面が訪れます。今年の1月にあった能登半島地震の際には、県立図書館でも約6万冊の本が落下し、傷んだ資料がたくさんありました。
現在でも竹内さんや他の職員が手分けをして、時間を見つけては少しずつ修復を進めているそうです。
本の魅力を伝え、
手に取る機会をつくっていく。
元々本を読むのが好きだった竹内さんですが、司書を目指すようになったのは、大学時代に出会ったある図書館長との出会いが大きかったそう。
「『この人に聞けば何でもわかる』と、住民から抜群の信頼を寄せられ、それでいて偉そうなところがない憧れの司書でした。」
本を読む人がどんどん減っているなか、文字だけで自分の想像力を働かせて物語を構築する良さが本にはあると、竹内さんは言います。少しでも本との接点をつくるため、最近は展示にも力を入れているそう。
「切り口を変えることで新たな本の魅力にたどり着くことって結構あるんですよ。展示を通して普段手に取らないような本を手に取ってもらえれば、僕たち図書館司書の面目躍如かな。」
「自分は読書に救われてきた人間だから、読書で救える人はまだ世の中にたくさんいると思っているんです。本の出版が減っているなかで、今後図書館というものがどうなっていくのかはわかりませんが、どんなものになっても、これまで受け継がれてきた資料をしっかり保存して、 少しでもその魅力を伝えていければと思っています。」
おわりに
「1分で本を見つけられる司書に話を聞こう!」と思ってお話しを聞いたら、資料を未来に残していくという県立図書館の重要性に気付かされた取材でした。
県立図書館では様々な企画展示やイベントも開催されています。休館日等の情報もXで発信されているので、ぜひフォローしてください。
文:広報・ブランディング推進室 新田
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