【木を育てるだけじゃない】林業職のリアルをゆるく語り合う。
こんにちは。広報・ブランディング推進室です。
今回は、富山県庁で林業職として働く20~30代の若手職員3人に、業務内容や職場の雰囲気について、ありのまま教えてもらいました。
長めの記事ですが、採用パンフレットに載らなさそうなココだけの情報を話していただけたので、この記事をきっかけに少しでも林業職の仕事に関心を持っていただけたら嬉しいです。
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本編に入る前に、林業職の業務内容について紹介します。県が発行しているパンフレットでは以下のように記載されています。
「林業」と聞くと、何となく木を植えたり木材を使って何かをしたりするイメージがありますが、実は山を維持管理するための道を整備したり、山で発生する地すべりなどの災害への対応をしたり、幅広い業務を担当する職種のようですね。
それでは、3人にいろいろお話しいただきましょう。
林業職になろうと思った理由。
ーーどうして富山県の林業職になろうと思ったんですか?
押上:
元々は植物の研究をしたくて、大学で4年間林学を学んでいました。ただ大学で学んでいく中で、自分は研究職には向いていないなと感じたんです。それでも何か大学で学んだことを活かせる業務に就きたいと思い、富山県の林業職を受験しました。
浜井:
私も押上さんと同じように大学で4年間林学を学んでいて、自分の学んできたことを活かして地元に貢献したいという思いがあり、林業職を受験しました。
中学生の頃に汚れている川が目に入って、漠然と環境を守る仕事がしたいなと思っていました。それで大学受験の際に、きれいな水のためにはやはり山や森の整備が重要だろうと考えて、森林に関することを学ぼうと決めました。
もしかすると、子どものころに祖父と一緒に山でよくタケノコ採りをしていたのも影響しているかもしれません。
ーー清水さんは民間を一度経験されています。出身も県外ですが、どうして富山県の林業職になろうと思ったんでしょうか。
清水:
私も大学で林学を学んでいました。林学に進んだきっかけは、生き物や自然が好きだったということが大きかったと思います。
大学で4年間学んだあとに、一度林業とは違う業界で働きました。転職する際、次はどうしようかなと立ち止まって考えて、今度は大学で4年間学んできたことを活かせる林業系の仕事に就こうと思ったんです。
富山県を選んだ理由は、私の出身が岐阜県の高山で、元々富山が身近な土地だったというのが一つ。高山市民って買い物するにも富山に行くんです。あとは、富山だと転勤しても引っ越す必要がないことも理由として大きかったですね。
岐阜県は北から南まで移動距離を考えると苦労するんですが、富山県は中心の富山市に住んでしまえば1時間もあれば県内のどこにでも行けますよね。そう考えると、富山県ってすごく住みやすいのかなと思って、富山県の林業職を受けようと思いました。
現在の業務内容について教えてください。
押上:
地すべり防止工事の設計書の作成や、工事発注後の監督業務を主に担当しています。地すべり防止工事というのは、地すべりが発生した現場で再発を防止するための工事のことで、地すべりの原因を取り除く工事(抑制工)や、地すべりそのものを力で抑える工事(抑止工)があります。
押上:
設計書というのは、最終的に県として作ってほしい構造物を示した「図面」や、工事をする上での留意事項等をまとめた「仕様書」、どういった構造物をなぜ作るのかという「根拠資料」、構造物を作るうえで必要となる資材や機械、労務などの費用を積み上げた「積算書」といわれるものなどのことです。
ーー設計書を元に工事を発注するわけですね。監督業務というのはどんなものですか?
押上:
井戸やトンネルなどの構造物を作るための現場の「確認」や、工事業者の方との「協議」、場合によっては「指示」するといったことを監督業務と言っています。
例えば、構造物をつくる前には地盤調査が必要です。これは、構造物自身の重みで地盤が沈下しないか確かめるために必要な調査です。
調査した結果、もし地盤が沈下しそうな強度だったら、その対応方法について工事業者さんと「協議」する必要が出てきます。最初に作った設計書は、沈下することを想定していないわけですからね。
そして、沈下を防止するための地盤改良工事を追加で「指示」することになるわけです。工事中にも、設計書通り工事が行われているか「確認」することが必要です。
ーー工事業者の方と協力して工事を進めていくんですね。清水さん、浜井さんはどんな業務をしていますか?
清水:
私も押上さん同様に工事の設計・監督業務も担当していますが、他に地すべり防止区域における制限行為の許可手続きをやっています。
地すべり防止区域の中では工事などが制限されるので、民間の業者さんから「工事予定地が地すべり防止区域の中に入っているがどうしたら良いか」などといった問い合わせに対応しています。
浜井:
私は、町長水須(まちながみずす)線という、富山市の旧大沢野町と旧大山町を結ぶ林道を新しく作っています。山の中に道を作るので、まずは木を伐採して、次に土を掘って、最後にはアスファルト舗装をします。その他には県が管理する林道のトンネルや橋の補修工事も実施しています。
私も工事の設計・監督業務がメインで、業者さんとやり取りしながら林道を作ることに携わっています。
働いてみて感じたイメージとのギャップ。
ーー実際に働いてみて、イメージしていた仕事とのギャップはありましたか?
押上:
働く前は、林業職って山に行って木を伐る人たちのお手伝いなどをやるのかなと思っていました。でも実際働いてみると「コンクリート構造物を作ってください」といわれる土木系の仕事も多いんです。
学校ではCADを使っていないし、治山ダムの設計もやったことがなかったので、まずは考えていた林業職の仕事と違ったなというのはあります。
清水:
私も災害対策を行う「治山」や林道工事の業務は土木部がやるものだと思っていたので、農林水産部で土木系のこともやっているんだという驚きはありました。
裏を返せば、土木に関する知識があれば大学で林業を学んでいない方でも活躍できるので、とっつきやすいのかなとも同時に思いましたね。
ーーイメージしていたよりも休暇が取りやすいとも伺いました。
清水:
柔軟に休暇が取れるのはありがたいですね。民間で働いていた時は、突然の休暇というのはなかなか難しかったので。
押上:
休暇が取りやすいので、旅行に行きやすくて嬉しいです。有給休暇を月曜日や金曜日に取得して、土日とあわせて3日間で遠出することもありますよ。
印象に残っている仕事。
ーーこれまでの業務で印象に残っている業務はありますか?
浜井:
海岸の松枯れ対策工事が印象に残っています。松枯れはマツノザイセンチュウという小さい線虫が松に悪さをして枯らしてしまう病気ですが、そのときは植えて少ししか経っていない小さな松がたくさん枯れてしまったんです。
この線虫自身は別の木に移動できないんですが、マツノマダラカミキリムシっていうカミキリムシにくっついて一緒に移動できてしまうんです。
宿主であるカミキリムシは松の中で越冬して、春になると蛹になって少ししたら成虫になって松から脱出するんですが、そこに線虫がくっついて脱出されると松枯れが他の木にも広がってしまう。だから、宿主が脱出する前に対処する必要があり、時間との勝負なんです。
枯れた松は早く伐る必要がありますし、伐り倒した松は適切に処理しないと木の中にいる宿主と一緒に線虫が逃げて行ってしまうんです。生物相手ということで大変でしたね。
元々海の近くに住んでいたということもあって、小さいころから海岸の方には散歩に行っていたので、松枯れは見たことがありました。
当時はたくさんの松が枯れているのを目の当たりにして「一体全体どうしてこんなことになっているんだ」と衝撃を受けていたのを覚えています。
当時の記憶が印象に残っていたので、公務員になって松枯れ対策工事の担当だといわれたときには嬉しかったですね。今までやったことがないイレギュラーな仕事だったので大変でしたが、誇りをもって業務に取り組めました。
ーー素敵なエピソードですね。清水さん、押上さんはいかがですか?
清水:
私は自然公園事業として実施した折立太郎山線の歩道整備ですね。有峰の折立登山口から、薬師岳や黒部川源流域へ向かう登山道を再整備しました。
現場に行くまでは大変でしたが、景色もきれいだったし、ああいった環境で仕事することってなかなかできない経験だったな、と今となっては思います。整備作業中にたまたま登山中の方がいらっしゃって「道を整備してくれてありがとう」とおっしゃっていただいたときはすごく嬉しかったですね。
押上:
氷見市で起きた豪雨災害の対応業務がとても印象に残っています。大きな地すべりが発生して、下流には人家もあったため、すぐに応急工事をする必要がありました。
現地に職員もいましたが、至る所で災害が発生していたため、その対応に追われて地すべりへの対応が追い付いておらず、私も現場で直接対応する必要がありました。
大きな地すべりだったので、報道でも大きく扱われるなど世間の注目度が高く、議会でも取り上げられました。そうした資料の整理も並行して進めていたので、忙しすぎてお盆の時期から9月末くらいまでの記憶がはっきりしないくらいです。
大変な経験でしたが、私たちの仕事は人命や人の財産が絡んでくる、スピード感が重要な仕事だと実感しましたね。
若手職員が増えている職場。
ーー以前と比べると20代や30代の若手職員が増えてきていると思います。職場の雰囲気はいかがですか?
清水:
年齢が近い人たちが周囲にいるのもあって、会話がしやすいし、風通しがいいという感じがします。
浜井:
同世代の人たちが増えて、働きやすくなりましたね。
押上:
私は今年異動してきたばかりですが、筆頭主任を任されているので、実際のところ、プレッシャーを感じることもあります。後輩の清水さんに助けられることも多いですね。
ーー若手ならではの苦労はありましたか?
押上:
工事の現場代理人の方が自分よりも年上の人ばかりなので、向こうはたくさん知っているのに、自分は何も知らないというときは苦しかったですね。
例えば現場代理人の方から工事の内容について質問や意見をされたときに、「こういう時には当然こうするもの」という風に話されても、それが本当に正しいのか自分ではわからないんです。
清水:
教科書みたいに自分で調べてぱっと答えが出てくるのならいいけれども、それがなかなか見つからないから難しいところですよね。
押上:
それが林業職の面白いところでもあり、難しいところでもあるのかなって思います。
浜井:
私も仕事でわからないところは隣の先輩職員に教えてもらいながら、わからないなりに頑張っています。
おわりに
皆さんから自然が好きな様子が伝わってくる座談会でした。「林業」という言葉から想像されるよりも幅広い業務を扱っていて、大学で林学を学んでいない方でも選びやすい職種なんですね。
林業職の仕事は、山の方で工事をしている分、街中で実施されているような土木工事に比べると見えづらい部分がありますが、山を守る治山工事や林道をつくる工事など、富山の自然を支える大切な仕事だということがわかりました。
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